クリエイター

佐藤 順一Junichi Sato

1960年生まれ。1990年代に『美少女戦士セーラームーン』『夢のクレヨン王国』『おジャ魔女どれみ』といった児童・少女向け作品を中心に手掛け、数多くの名作を世に送り出す。現在ではオリジナル作品の制作も積極的に行なっており、企画段階から精力的に関わった作品を発表している。

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WORKS

  • 『魔女見習いをさがして』(MOVIE/2020)監督
  • 『泣きたい私は猫をかぶる』(MOVIE/2020)監督
  • 『HUGっと!プリキュア』(TV/2018)シリーズディレクター
  • 『あまんちゅ! 』(TV/2016)総監督
  • 『たまゆら』(TV/2010)原作、監督、シリーズ構成
  • 『ARIA The ANIMATION 』(TV/2005年)監督、シリーズ構成
  • 『ケロロ軍曹』(TV/2004)総監督
  • 『カレイドスター』(TV/2003年)原案、監督
  • 『おジャ魔女どれみ』(TV/1999)シリーズディレクター
  • 『美少女戦士セーラームーン』(TV/1992)シリーズディレクター

INTERVIEW

最初にアニメーションに心を動かされた原体験を覚えていますか? 記憶は残っていないんですが、当時のアニメは作品によってクオリティに差があったと思うんです。親からすると、手抜きに見えるクオリティの作品を面白がってよく見ていたらしいですね(笑)。興味の対象が絵ではなくて、それよりもそこにいるキャラクターに惹かれていたんだと思います。中学生ぐらいのときにテレビで見ていたアニメも、おそらく子供たちに向かって優しさとか正義感などが語られていた作品だったと思いますが、それが自分の作品制作のベースになっている気がしますね。

アニメーションに感じた一番の魅力はなんでしょうか。 アニメーションって子どもたちが見るメディアだと思うんです。自分自身、幼い頃に見ていた作品ははっきりとは覚えていないけど、あるテレビの特集番組で昔のオープニングを見てウルウルと泣きそうになったことがあって、その体験からこれはやりがいがあるメディアだなと感じて、自分もアニメーションをやってみようと思ったんです。

若い頃に刺激を受けたクリエイターはいらっしゃいますか? アニメーション的に好きでよく見ていたのは、大塚康生さんの『侍ジャイアンツ』のような、動きが気持ちいい作品でしたね。宮崎駿さんも同じ理由で好きです。物語的なところで言えば高畑勲さん。我々の世代はどうしてもそこはみんな通ってきていると思います。
アニメーション以外だと、漫画家の近藤ようこさん。とりわけ初期に読んだ、『猫っかぶりゼネレーション』という作品は好きですね。それまでの少女漫画や少年漫画では見たことのない、女子高生のありのままの描写が心地よかった。ちょっと年齢の高い女の子を描くときにはかなり下敷きになっているかもしれません。物作りにおいて、自分の中でゼロから出てくるオリジナリティーって実はそんなに力を持っていない。どこかで見たものの面白さや感動を自分の作品の中で再現することのほうが大きな力になっています。

佐藤監督が作品を作る上で重視されていることを教えてください。 作品のターゲットによって変わります。僕は最初に入った会社で、メインターゲットが3歳から5、6歳ぐらいという未就学の子どもたちをメインにしていた番組制作をしていました。当時から“その子たちが何を好むか”をすごく考えていましたね。

僕が中学生ぐらいの頃に好きで見ていた『宇宙戦艦ヤマト』はそれまで見ていた子ども向けのアニメよりもドラマ性が高かった。集団の中での諍いとか、ただの正義感だけでは語れないものもあって面白く感じていたと思うんです。一方で、僕が初めてシリーズディレクターをやった『メイプルタウン物語』は3~5歳の女の子がターゲット。そこに重すぎる人間ドラマを持ってくることは適当ではないですよね。
そこで考えていたのは、「主人公を好きになってもらいたい」ということでした。幼稚園ぐらいの女の子にクラスで誰が好きかを聞くと、ある日はAくん、数日後にはBくんって変わるんです。その理由って必ず、「優しくしてくれたから」なんですよ。それこそ「クレヨンを貸してくれたから」ぐらいのことなんですけどね。そこが誰かを好きになる基準なんだなということで、キャラクターを描く上でも重要視していました。

そういった傾向も参考にされているのですね。 3~5歳ぐらいの子に見せるアニメを作ったとして、見てくれた子たちはその後、ストーリーは忘れます。自分がそうだったし、忘れて構わないと思う。ただ、物語の中で感じた気持ちはきっとどこかに残っていくんじゃないでしょうか。思春期を超えて大人になって、アニメを見たことも忘れてしまっても、記憶の端っこに残っていれば嬉しい。他人への思いやりや、誰かが手を差し伸べてくれたことが嬉しかったなとかいう、アニメを見た時に感じた気持ちが残っていてくれたら、同じ立場になったときにも自分から手を差し伸べることができる。そういうことがあるかもしれない。ないかもしれないけど、あるかもしれない。その「あるかもしれない」の一点のために、描き込んでいるんです。